いい桑が、いい蚕をつくる ― 桑畑のはなし
養蚕というと、どうしても蚕に目が行きます。でも、養蚕をやるほどに、こう思うようになります。「いい繭は、いい桑から」だと。
じつは養蚕の本当の勝負どころは、蚕そのものより、その餌である「桑」にあるのかもしれません。今回は、繭の品質を陰で支える――桑畑の話をしたいと思います。
いい桑が、いい蚕をつくる
蚕が口にするのは、桑の葉、ただそれだけ。だから当然、桑の質が、そのまま蚕の育ちを左右します。みずみずしく、栄養のある桑を食べた蚕は、よく育ち、いい繭をつくる。「いい桑を育てることは、いい蚕を育てること」――これは、養蚕の根っこにある真実です。
私たちの場合は、シルク博物館に桑畑を紹介してもらえたおかげで、こうして養蚕ができています。すでに育った桑畑を引き継げたことは、本当にありがたいことでした。
桑は、ほうっておくと大木になる
桑という植物は、とにかく生命力が強い。ぐんぐん、ぐんぐん伸びていきます。ほうっておけば、やがて大木になってしまうほどです。
毎年きちんと養蚕をしていれば、蚕に与えるために枝葉を刈り取っていくので、桑が大木になることはありません。けれど、たった一年でも養蚕の間隔が空くと、桑はあっという間に、かなり太くなってしまうのです。
剪定ばさみから、ノコギリへ
ふだん桑を切るときは、剪定ばさみ(せんていばさみ)を使います。すっと切れて、扱いやすい。
ところが、桑が太くなりすぎると、はさみでは歯が立たず、ノコギリで切らなければならなくなります。そして、太く育ちすぎた桑を蚕に与えると、蚕座(さんざ=蚕を飼う棚)が重くなり、作業の効率がぐっと落ちてしまう。
だからこそ、桑は「こまめに、使い続ける」ことが大切なのです。手を入れ続けることが、結果的にいちばんラクで、いい桑につながります。
いい桑を育てる、地道な手しごと
では、いい桑をつくるために、何をするのか。特別なことではありません。
肥料をきちんと与えること。そして、こまめに除草をすること。雑草に養分を取られないよう、桑がのびのび育つ環境を整えてやる。

派手さはありませんが、こうした丁寧な作業の積み重ねこそが、いい桑を育てるいちばんのコツです。地道な手しごとが、やがて美しい繭になって返ってくるのです。
春蚕が、一番いい繭をつくる
桑には、季節があります。
春、芽吹いたばかりのみずみずしい桑を食べて育った蚕――「春蚕(はるご)」は、一年のなかで最も品質のいい繭をつくると言われています。やわらかく、生命力にあふれた春の桑が、最高の繭を生むのです。
桑畑は、めぐる
そして、桑畑のすごいところは、一度きりで終わらないこと。
春に葉を刈り取った(採桑した)桑畑は、夏のあいだにまた生長し、秋にはふたたび葉を茂らせます。その葉を、今度は秋の蚕に与える。同じ桑畑が、季節をめぐりながら、何度も蚕を育ててくれるのです。
桑が育ち、蚕が食べ、繭になり、また桑が芽吹く。すべては、ぐるりとめぐっています。
派手な作業ではありません。でも、この地道な桑畑の手入れこそが、いい絹のいちばんの出発点。ゼロの番人として、私はこれからも、一本いっぽんの桑と、丁寧に向き合っていきたいと思っています。
いい繭は、いい桑から。そして、いい桑は、人の手から。
ZEROSPHERE / ゼロの番人