ZEROSPHEREJOURNAL ← 一覧へ
養蚕 / Hatch
2026.06.29 — 養蚕

養蚕は、こうして始められる ― 西予市での第一歩

「養蚕を始めてみたい」。そう思っても、たいていの人はこう続けます。「でも、どこから手をつければいいのか分からない」と。

じつは私が暮らす愛媛・西予市には、その最初の一歩を支える仕組みがあります。ただ、先に正直にお伝えしておきます――これは西予市だからこそできること。同じやり方が、日本中どこでも通用するわけではありません。西予市の養蚕は、シルク博物館が担当の窓口となって、さまざまな支援を整えてくれているのです。

その前提のうえで、「西予市での養蚕の始め方」を、私の経験からお話しします。

蚕は、どこから来るのか

養蚕というと、卵から育てるイメージがあるかもしれません。でも西予市では、もっとも手前の大変な部分を、地域の仕組みが引き受けてくれます。

蚕の供給元は、八幡浜の「愛媛蚕種」。期限までに必要数を東宇和農協(JA)に連絡しておくと、配蚕(はいさん)の日に、担当者が3齢幼虫――3齢まで育った若い蚕――を蚕舎まで届けてくれます。

つまり、卵の管理や、いちばん手のかかる稚蚕(ちさん)期を、自分でゼロからやらなくてよい。しかも、蚕種代と稚蚕飼育費には西予市の補助があります。これは、始める人にとって本当に大きな後押しです。

桑がなければ、始まらない

蚕の餌は、桑の葉だけ。だから桑の確保が、養蚕の生命線です。

ただし気をつけたいのは、時間です。桑は、植えてから養蚕に使えるようになるまで、およそ3年かかります。「思い立ってすぐ」とはいかないのです。

ここでも西予市には助けがあります。シルク博物館が、離農された農家さんの桑畑を、これから始める人にマッチングしてくれる。すでに育った桑畑を引き継げれば、その3年を待たずに始められます。

蚕を飼う場所

蚕を育てるには、広いスペースと、屋根・壁のある建物が要ります。

そして近年の課題が、暑さです。猛暑が続くようになり、蚕舎の暑熱対策が大きなテーマになっています。逆に昔は、肌寒い5月や10月には、蚕舎でストーブを焚いて温度を保っていました。蚕は、暑すぎても寒すぎてもいけない、繊細な生きものなのです。

道具のこと

必要な道具は、大きく二種類あります。

ひとつは、蚕座(さんざ)や蔟(まぶし)といった、養蚕ならではの専門道具。もうひとつは、ネット、桑を運ぶ軽トラック、桑畑の手入れに使う草刈り機や剪定ばさみなど。

気をつけたいのは、専門道具のなかには、もう作られていない・入手が難しいものもあること。養蚕をする人が減ったいま、道具を揃えること自体が、ひとつのハードルになっています。

どれくらいで、繭になるのか

配られた3齢幼虫から、上蔟(じょうぞく=繭をつくらせる作業)までが、およそ3週間。そこからさらに1週間ほどで、繭になります。

つまり、ひとシーズンはおよそ1か月。短いようでいて、その1か月は、毎日の給桑と世話に追われる、濃密な日々です。

お金のこと

気になる費用。私たちの場合は、空き家を自分たちの手で改修して蚕舎にしたので、およそ70万円ほどで収まりました。

ただしこれは、あくまで一例です。施設の大きさや、新築するか・改築するかで、費用は大きく変わります。手をかけられる部分は自分でやる――それが、初期費用を抑えるいちばんのコツです。

忘れがちな大事なこと:売り先と、指導者

最後に、これが

大切です。

売り先を決めておかないと、繭を作っても行き場がありません。「とりあえず作ってみる」では立ち行かないのです。

そして、桑を与えれば勝手に繭になる、わけでもありません。成長段階に応じたグループ分け、上蔟のタイミングの見極め、病気の予防――要所要所で、経験ある指導者の存在が欠かせません。

その点でも西予市は恵まれています。シルク博物館が窓口となって、繭の買い取りから飼育の指導まで、体制が整っているのです。

こうして並べてみると、西予市の養蚕が、いかに「始めやすい環境」に支えられているかが分かっていただけると思います。稚蚕の供給、補助、桑畑のマッチング、買い取りと指導――どれも、当たり前にあるものではありません。

だからこそ、ゼロの番人として、私はこの仕組みごと伝えていきたい。「養蚕を始めてみたい」という人が、最初の一歩を踏み出せるように。

もし興味がわいたら、まずはシルク博物館をのぞいてみてください。そこから、あなたの養蚕が始まるかもしれません。

ZEROSPHERE / ゼロの番人

関連する記事