鳥の羽で、掃く ― 「掃立」から始まる養蚕
養蚕は、一粒の卵から始まります。今日は、蚕の一生のいちばん最初――「掃立(はきたて)」と「稚蚕(ちさん)」の話をしたいと思います。
「掃立」という、美しい言葉
蚕が卵から孵化して、飼育する場所へ移すこと。これを、養蚕の世界では「掃立(はきたて)」と呼びます。
なぜ、「掃く」という字が使われるのか。理由を知って、私はこの言葉が好きになりました。
生まれたばかりの幼虫は、とても小さく、そして繊細です。人間の指で直接つまめば、傷つけてしまう。だから昔の人は、鳥の羽をつかって、そっと掃くようにして移したのです。生まれたての命を、羽で、やさしく。その所作から、「掃立」という名がついたのだといいます。
道具ひとつ、言葉ひとつに、蚕への敬意とやさしさが宿っている。養蚕は、そういう営みなのだと、あらためて思わされます。
稚蚕(ちさん)― 幼い日々
蚕は、成長とともに脱皮を繰り返し、齢(れい)を重ねていきます。
そのうち、一齢から三齢までの、まだ幼い時期の蚕を「稚蚕」と呼びます。小さくて、か弱くて、いちばん手のかかる時期。温度も、湿度も、餌の桑も、細やかに気を配ってやらなければなりません。
西予市では、三齢から
じつは、この稚蚕の時期には、地域によって大きな違いがあります。
西予市の養蚕では、農協を通して、農家さんのもとへ蚕が配られるのは「三齢」から。八幡浜の「愛媛蚕種」が、卵から孵化させ、三齢まで大切に育てたうえで、届けてくれるのです。
昔は、掃立から――つまり孵化のその瞬間から、稚蚕飼育まで、農家が自分の手でやっていたそうです。けれど今は、いちばん難しい幼い時期をプロが引き受け、農家は三齢幼虫から始める。これも、養蚕を続けやすくするための、地域の知恵のひとつなのです。
鳥の羽で掃かれ、プロの手で育てられ、そして農家のもとへ。一頭の蚕がたどるその道のりには、たくさんの人のやさしさが重なっています。ゼロの番人として、私はその一つひとつを、これからも見つめていきたいと思います。
ZEROSPHERE / ゼロの番人