いちばん繊細な、幼い日々 ― 稚蚕を育てる
前回、蚕の一生のはじまり――「掃立(はきたて)」と「稚蚕(ちさん)」について書きました。今日はその続き。もっとも神経を使う「稚蚕飼育」の話です。
泊まり込んで、守った命
稚蚕とは、一齢から三齢までの、まだ幼い時期の蚕のこと。とても小さく、繊細で、そして病気にかかりやすい。だから、特別な気づかいが要ります。
昔の人が、どれほどこの時期を大切にしていたか。こんな話が残っています。かつては、稚蚕のために隔離された場所を用意し、そこに泊まり込んで、ほかの人を一切入れずに世話をしていた、というのです。
病気を持ち込ませない。温度を切らさない。ただそのために、寝食を共にしてまで蚕に寄り添った。掃立のあとの稚蚕飼育は、それほどまでに、蚕の一生を左右する大切な時期なのです。この時期の管理の良し悪しが、その後の成長も、最終的な繭の品質も、大きく決めてしまいます。
稚蚕飼育、六つの心得
では、具体的に何に気をつけるのか。私が大切にしているポイントを、六つにまとめてみます。
① 温度と湿度を、保つ
稚蚕に適した環境は、温度26〜28℃、湿度80〜90%。かなり暖かく、しっとりした環境です。いちばん怖いのは、急な温度変化と乾燥。この二つを避けることが、何よりの基本になります。
② 新鮮で、柔らかい桑を与える
幼い稚蚕に与えるのは、芽先や若葉といった、柔らかい葉。古い葉や乾いた葉は、小さな口では食べにくく、生育不良の原因になってしまいます。人間でいえば、赤ちゃんに離乳食を選ぶような気づかいです。
③ 少量ずつ、こまめに
稚蚕は、一度にたくさんは食べられません。だからこそ、少しずつ、何度も。常に新鮮な桑がそばにある状態を保ってやります。手間はかかりますが、この「こまめさ」が、元気な蚕を育てます。
④ 清潔を、保つ
食べ残しや糞がたまると、たちまち病気のもとになります。「網替え」――蚕を新しい網に移して、汚れを取り除く作業――をこまめに行い、いつも清潔な環境を保ちます。
⑤ 密飼いを、避ける
成長に合わせて、少しずつスペースを広げていきます。狭いところに詰め込む「密飼い」は禁物。密集すると、一頭の病気が、あっという間に全体へ広がってしまうからです。
⑥ 「眠(みん)」を、見極める
蚕は、成長の節目で脱皮をします。その直前、頭を持ち上げたまま、じっと動かなくなる。これが「眠」に入る合図です。眠に入ったら、給桑を控え、静かに見守る。邪魔をせず、そっとしておくことも、大切な世話のひとつなのです。
小さくて、か弱くて、手のかかる稚蚕の時期。けれど、ここでどれだけ丁寧に寄り添えるかが、美しい繭へとつながっていく。昔の人が泊まり込んでまで守ったその心を、私も受け継いでいきたい。ゼロの番人として、今日も静かに、幼い命を見守ります。
ZEROSPHERE / ゼロの番人