伊予生糸 ― 私たちの繭が、日本の宝になる
私たちが手塩にかけて育てた繭。それは、そのまま終わりではありません。野村シルク博物館で「繰糸(そうし)」――繭から糸を繰り出す作業――を経て、一本の生糸へと生まれ変わります。
今日は、その生糸の話をしたいと思います。じつはこの糸、ただの糸ではないのです。
「伊予生糸」という、ブランド
私たちの繭から生まれた生糸は、「伊予生糸(いよいと)」と呼ばれます。
そしてこの伊予生糸は、農林水産省の「地理的表示(GI)保護制度」に登録されています。GIとは、その土地ならではの風土や伝統が育んだ、確かな品質の産品だけに与えられる、国のお墨付き。「この土地の、この品質」を、国が保証してくれる仕組みです。
野村の繭から繰られた糸が、日本の中でも特別な一本として認められている――。作り手として、これほど誇らしいことはありません。
伊勢神宮に、女王のドレスに
伊予の生糸は、昔からその品質の高さで知られてきました。
どれほどのものかというと――伊勢神宮の式年遷宮(しきねんせんぐう)。二十年に一度、社殿を建て替え、神さまの装束もすべて新しくする、日本の神事の中でも最も神聖な儀式のひとつ。その装束に、伊予の生糸が使われてきたといいます。
さらに、海を越えて。昭和二十八年(一九五三年)、イギリス・エリザベス女王の戴冠式。その式典を彩ったドレスにも、伊予の生糸が使われたと伝えられています。
日本の神さまの装束から、イギリス女王の晴れ舞台まで。伊予の糸は、国の内と外で、最高の場面に立ち会ってきたのです。
知られざる、日本の宝
正直なところ、このことは、あまり広くは知られていません。
けれど――日本の古くからの伝統を支え、海の向こうのセレブリティにも選ばれてきた。伊予生糸は、西予市だけの誇りにとどまらない、まぎれもない「日本の宝」なのです。
その宝の、いちばん最初の一歩を、私たちは担っています。桑を育て、蚕を飼い、繭を作る。その一粒いちりゅうの繭が、やがて女王のドレスにもつながる糸になるのだと思うと、日々の地味な世話にも、背筋が伸びる思いがします。
小さな繭から、日本の宝へ。ゼロの番人として、私はこの誇らしい循環の一端を、これからも守り、伝えていきたいと思います。
ZEROSPHERE / ゼロの番人