なぜ、有害鳥獣を捕るのか ― 数字が語る現実
前に、私が狩猟を始めた理由を書きました。仲間と育てた田んぼを、イノシシから守るため――。それは、まぎれもない本音です。
でも今回は、もう少し引いた視点から、「なぜ有害鳥獣を捕るのか」を考えてみたいと思います。手がかりは、数字です。数字は、感情よりもまっすぐに、現実を映し出してくれます。
全国で、年間188億円
まず、日本全体の話から。令和六年度、野生の鳥獣による農作物の被害は――
・被害額:およそ188億円
・被害面積:およそ4万ヘクタール
気の遠くなるような数字です。なかでも加害が大きいのが、シカ(約78.5億円)とイノシシ(約44.6億円)。さらにヒヨドリ、カラス類、サルと続きます。全国では、シカによる被害が大きな割合を占めているのです。
西予市では、イノシシが最大の敵
では、私たちの西予市はどうでしょう。同じ令和六年度の被害額を、獣ごとに見てみます。
・イノシシ:約2,036万円
・ヒヨドリ:約1,241万円
・カラス類:約252万円
・カワウ:約135万円
・ニホンザル:約43万円
・ニホンジカ:約4万円
合計で、およそ3,700万円。
全国では「シカ」が被害の中心でしたが、西予市では事情が違います。最も深刻なのはイノシシ。そして、ヒヨドリによる果樹の被害も、大きな割合を占めているのです。地域によって、敵の顔ぶれは変わるのですね。
変わりつつある、鹿の存在
ただ、その「西予はイノシシ」という構図も、少しずつ変わりはじめています。
じつはここ三年ほどで、鹿の捕獲数がかなり増えてきているのです。私が捕獲を始めたころは、鹿などまったく捕れませんでした。それが今では、確実に獲れるようになっている。山の様子が、静かに変わってきているのを、現場で肌に感じています。
西予市の、捕獲の現場
こうした被害に対して、西予市では地道な捕獲が続けられてきました。
イノシシは、平成二十二年度以降、毎年1,000頭を超える捕獲を継続しています。これは、愛媛県内でも非常に多い水準です。数字の裏には、山に入り続けてきた、たくさんの人の手があります。
捕って終わり、ではない ― 命をいただく
そして、ここがいちばん大切なところです。
捕獲した命は、「駆除して終わり」ではありません。西予市のジビエ処理施設では、令和六年度に――
・イノシシ:326頭
・ニホンジカ:123頭
を受け入れ、食肉として有効に活用しています。これは、捕獲された個体のうち、ジビエとして利用された頭数です。
畑を守るために捕った命を、無駄にせず、ありがたくいただく。そこには、ひとつの「循環」があります。
守るために、いただく
有害鳥獣を捕るのは、地域の作物と暮らしを守るため。そして、いただいた命は、食卓へとつなぐ。
「守ること」と「いただくこと」は、別々のことではありません。一本の線でつながった、ひとつの営みなのです。
私たちはこの循環の中に立っています。命を奪う重さも、その命をいただくありがたさも、どちらも引き受けながら。
数字は、現実を教えてくれます。188億円、3,700万円、1,000頭、326頭――。その一つひとつの向こうに、守られた畑があり、いただいた命があります。
ZEROSPHERE / ゼロの番人