数万匹から、熟した蚕を拾う ― 養蚕いちばんの山場「上蔟」
壮蚕飼育で、蚕は最後の一週間にぐんぐん大きくなる、と書きました。今日はその先——養蚕でいちばん忙しい山場、上蔟(じょうぞく)の話です。
いい繭をつくる、最後の仕事
養蚕の仕事は、なんといってもいい繭をつくること。
どれだけ桑をたっぷり与えて大きく育てても、蚕を蚕座のまま繭を作らせると、「座繭(ざけん)」といって、形の崩れた品質の落ちる繭になってしまいます。
きれいな繭をつくるには、繭を作る直前の蚕を、専用の「蔟(まぶし)」に移してやる必要があります。蔟とは、蚕が一匹ずつ入って糸を吐ける、小さな仕切りが並んだ道具です(この蔟そのものの話は、次回じっくり紹介します)。この蔟に蚕を移す作業が「上蔟」です。
「熟蚕」を、見極める

まず、繭を作る準備ができた蚕を見つけます。糸を吐き出しそうな蚕を「熟蚕(じゅくさん)」——地元では「あがりこ」「ひき」とも呼びます。
見分け方は、こんなサインです。
- 体が少し小さくなる
- 色が、クリーム色っぽく透けてくる
- 頭を、さかんに振り出す(糸を吐く場所を探すしぐさ)
ここが肝心。まだ熟蚕になっていない蚕を蔟に移しても、いい繭はできません。 かといって、まだ桑を食べたい蚕を上げてしまってもダメ。「今だ」という一匹を見極める目が、繭の質を決めます。
数万匹の中から、拾う
これが、どれほど大変か。
数万匹の蚕の中から、熟蚕だけを探して拾っていくのです。しかも厄介なことに——さっき見たときは熟蚕じゃなかったのに、もう一度見たら熟蚕になっている。蚕の成長は待ってくれません。目と手を動かし続ける、根気の作業です。
そして、タイムリミットがあります。一つのグループは、その日のうちに上げ切らないと座繭になってしまう。 だから最後は、熟蚕になりきっていない蚕も含めて「総拾い(そうびろい)」——全部拾い上げます。写真のように、みんなで桑ごと蚕を集めていく、あの光景です。
数の話 ― 一列に、400〜500グラム
ここで、面白い数の話を。
回転蔟は、一つの枠に約100頭の蚕を入れます。枠が10列あるので、一つの蔟に約1,000頭 → 1,000個の繭。それを3つ吊るすので、合わせて約3,000個の繭ができる計算です。
では、100頭をどう数えるか。まさか一匹ずつ数えていられません。そこで——重さで計ります。 蚕は1頭あたり約4〜5グラム。だから400〜500グラムを秤で計って、蔟の一列に入れる(写真の、緑の秤の場面がこれです)。「数える」を「量る」に置き換える、現場の知恵です。
三日間、繰り返す
蚕は、成長のペースで3つのグループに分けます。だから、この上蔟作業を——3日間、繰り返すのです。
数万匹を相手に、熟蚕を見極め、拾い、量り、蔟に移す。それを三日。養蚕が「いちばん忙しい」と言われる理由が、わかっていただけると思います。
けれど、この山場を越えれば——数日後には、蔟いっぱいに真っ白な繭が実ります。手をかけた分だけ、報われる。上蔟は、その喜びの直前にある、大切な大切な仕事なのです。
ZEROSPHERE / ゼロの番人