桑を、切らさない ― 大きく育てる壮蚕の飼い方
以前、いちばん繊細な幼い日々=稚蚕飼育のことを書きました。今日は、その続き——壮蚕(そうさん)飼育の話です。
壮蚕って、いつのこと?
蚕は、脱皮をくり返しながら大きくなります。一般的には、1〜3齢を稚蚕、4〜5齢を壮蚕と呼びます。
ただ、西予市の養蚕では3齢から自分たちで飼うので、ここでは3〜5齢の話になります。稚蚕農家さんから元気な3齢蚕を受け取り、繭になる直前まで育て上げる——それが、私たちの壮蚕飼育です。
いちばん大事な、3つのこと
新鮮な桑を、十分に与える。蒸れさせない。蚕座(さんざ)を広く、清潔に保つ。
シンプルですが、これがなかなか奥深い。ひとつずつ見ていきます。
① 桑を、切らさない
まず、桑を絶対に切らさないこと。
驚く数字があります。蚕は一生のうちに、約20gの桑を食べます。そのうち——5齢のたった約1週間で、18g。つまり一生の食事の9割を、最後の一週間で食べるのです。
まさに「食べざかり」。この時期は、新鮮で成熟した桑を、食べ残しが大量に出ない程度に、たっぷり与え続けます。桑畑を切らさないことが、いい繭への第一歩。いい桑が、いい蚕をつくる——以前書いたこの言葉が、ここで効いてきます。
② 蚕座を広げる(拡座)
蚕が育つと、蚕の居場所(蚕座)が手狭になってきます。
密集すると、蒸れて、病気の原因に。だから、蚕同士が重ならないよう、成長に合わせてこまめに広げていきます。これを拡座(かくざ)といいます。ゆったりした住まいが、健康な蚕を育てるのです。
③ 高温多湿を、避ける
蚕は、蒸し暑さに弱い生きものです。
温度の目安は、4齢で25℃前後、5齢で23〜25℃程度。風を直接当てず、換気して湿気を逃がします。
正直に言うと、ここがいちばんの難所です。梅雨のじめじめと、夏の猛暑——この時期の温度・湿度管理は、本当に神経を使います。特に雨の日は要注意です。
④ 掃除は、こまめに(でも触りすぎない)
蚕の糞(蚕沙=さんさ)や、桑の食べ残しをためないこと。除沙網(じょさあみ)を使って、定期的に蚕座を清掃します。
ただし——触りすぎは禁物。頻繁にいじると、かえって蚕を傷めてしまいます。「清潔に、でもそっと」。この加減が、経験のいるところです。
⑤ 「眠」の蚕には、桑を控える
蚕は、脱皮の前に「眠(みん)」という、じっと動かない時期に入ります。
頭を上げて動かなくなった蚕が増えてきたら、桑を与えるのを控えます。むやみに与えても食べませんし、蚕座が汚れるだけ。脱皮がそろって、みんなが起き出して(起蚕=きさん)から、少量ずつ再開します。
眠に入る子と、まだ食べている子を、うまく分けてやるのも腕の見せどころ。石灰を使って桑を乾かし、消毒も兼ねる——といった昔ながらの工夫もあります。このグループ分けがいい繭をつくるポイントです。
⑥ 「熟蚕」を、見逃さない
そして、いよいよ最後。
5齢の後半になると、体が透き通り、桑を食べなくなって、そわそわ歩き回る蚕が出てきます。これが熟蚕(じゅくさん)——「もう繭を作りたい」という合図です。
このサインを見逃すと大変。蚕座の上で糸を吐き始めてしまい、繭の質が落ちてしまいます。この合図を捉えて、次の上蔟(じょうぞく)へと進むのです。
手をかけた分だけ、いい繭に
桑を切らさず、広げて、蒸らさず、清潔に。そして、眠と熟蚕のサインを見逃さない。
派手さはありませんが、この世話が、繭の質を決めます。食べざかりの蚕たちが、もりもりと桑を食む音(まるで雨のようなんです)を聞きながら——私たちは、繭になるその日を待つのです。
ZEROSPHERE / ゼロの番人