幟があがると、乙亥が来る ― 乙亥を支える竹取
幟があがると、乙亥が来る
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乙亥大相撲が近づくと、会場を中心に、町のあちらこちらに幟旗(のぼりばた)があがります。
赤、青、緑——色とりどりの幟が、秋の空に何十本と立ち並び、風になびく。その光景を見ると、町の誰もが思うのです。「ああ、もうすぐ乙亥だな」と。この幟は、乙亥の到来を告げる、いわばまちの季節時計です。
幟旗そのものは、企業や団体、個人が作成したもの。それを、観光協会の役員や相撲協会の方々が一本ずつ設置していきます。ちなみに前回の記事で書いた会場づくりと同じく、これも乙亥を支える裏方の仕事のひとつです。
なぜ、竹であげるのか
この幟、実は昔から竹であげていきます。
金属のポールを使えば楽なはずです。それでも竹を使い続けるのには、理由があります。竹は軽く、しなやか。そして何より、昔から使われてきた素材だからこその雰囲気があります。風を受けてゆったりとしなる竹の幟——あの風情は、無機質なポールでは決して出せません。
そしてこの竹は、傷んでくるので定期的に入れ替えが必要です。ここで登場するのが、今回の主役——「竹取作業」を担う人たちです。
竹を、切り出す

まずは、竹林を持っている方の了承を得て、竹を切り出してきます。ちょうどいい太さ、まっすぐな竹を選んで、山から運び出す。写真に残る記録は、1996年(平成8年)9月23日。乙亥の約2か月前から、もう準備は始まっていたのです。
けれど、切ってきた竹を、そのまま使うわけではありません。ここから、ひと手間が加わります。
「油抜き」という手仕事

切り出した竹は、まず川で洗い、そして火であぶります。
これは「油抜き」という作業です。竹をあぶると、竹の中の油分が表面にじわりと浮いてきます。それを、布で丁寧に拭き取っていく。すると——
- カビや虫害が起きにくくなる
- 乾燥後の割れや変形を抑えられる
- 表面に艶が出て、色合いがきれいになる
- 熱で竹がやわらかくなり、曲がりを直しやすくなる
- 長持ちする竹材になる
ただの竹が、幟を支えるにふさわしい、丈夫で美しい竹に生まれ変わるのです。
火加減が、勝負

この油抜き、簡単そうで奥が深い。
強くあぶりすぎると、焦げてしまう。急に乾かすと、割れてしまう。だから、竹をくるくると回しながら、全体を均等に温める。そして、表面に汗のような油がにじんできたら、すかさず布で拭く。そのあとは、風通しのよい日陰で、じっくり乾燥させる。
火と竹と向き合う、根気のいる手仕事です。派手さはありません。けれど、この一本いっぽんの竹があってこそ、あの幟は秋空に凛と立つのです。
風になびく、その裏側で
乙亥のとき、何気なく見上げる幟旗。その足もとには、山へ入って竹を切り、川で洗い、火であぶった人たちがいます。
「もうすぐ乙亥だな」——その実感を、毎年まちに届けてくれているのは、こうした地道な手仕事なのです。次に幟を見上げるときは、ぜひ、その竹のことも思い出してみてください。
ZEROSPHERE / ゼロの番人