蚕の"部屋"をつくる ― 藁から回転蔟まで、まぶしの知恵
前回、上蔟(じょうぞく)の話を書きました。繭を作る直前の蚕(熟蚕)を、専用の道具に移す作業です。今日は、その"道具"——蔟(まぶし)そのものを、じっくり紹介します。
蔟(まぶし)って、なに?
蚕は、繭を作るとき、狭い空間に糸を吐いて繭を仕上げていきます。広い場所にそのまま置くと、糸が安定せず、形の崩れた「座繭(ざけん)」になってしまう。
そこで必要になるのが、蔟(まぶし)です。蚕が一匹ずつ入り、落ち着いて糸を吐ける——いわば、蚕のための小さな個室。この個室があるからこそ、きれいで質のいい繭ができるのです。
そしてこの蔟、時代とともに姿を変えてきました。昔の人の知恵と、現代の工夫。その両方を見ていきましょう。
昔の知恵 ①藁蔟(わらまぶし)

まずは、藁蔟(わらまぶし)。その名のとおり、藁(わら)で作った蔟です。
写真を見てください。藁を渦のように編み、その隙間に、蚕が白い繭を作っています。田んぼの副産物である藁を使う——身近な自然素材を、無駄なく生かした、昔ながらの道具です。米と絹、二つの営みが、藁一本でつながっている。そう思うと、味わい深いものがあります。
昔の知恵 ②藤蔟(とうまぶし)

もう一つが、藤蔟(とうまぶし)。山に自生する藤(ふじ)のつるを編んで作った蔟です。
しなやかに曲がる藤づるを、ループ状に並べていく。そのくぼみ一つひとつが、蚕の部屋になります。写真では、藤の弧の間に、真っ白な繭がぽつりぽつりと実っています。山の恵みを編んで、蚕の家にする——手に入るものを、工夫して使う。まさに、暮らしの中から生まれた知恵です。
こうした自然素材の蔟は、手間こそかかりますが、そこには先人たちの創意工夫が詰まっています。効率だけでは測れない、豊かさがあります。
現代の主流 ③回転蔟(かいてんまぶし)

そして現在、主流となっているのが回転蔟(かいてんまぶし)です。段ボールなどで作った格子状の蔟を、木枠で吊るします。写真の、天井いっぱいに吊り下げられた光景——あれが回転蔟です。「現代の」といっても、登場は80年ほど前。意外と歴史があります。
この回転蔟、実によくできています。利点は3つ。
① 空間を、有効に使える
床に並べる必要がなく、空中に吊るせるので、狭い蚕室でもたくさん設置できます。
② 繭が、まんべんなくできる
ここが最大の工夫です。蚕には、繭を作るとき上へ登る習性があります。すると上の部屋ばかり埋まってしまう。でも回転蔟は——繭ができて重くなった側が、自然に下へ回転する。空いた部屋が上に来るので、まだの蚕がそこで繭を作る。こうして全体にバランスよく繭が実るのです。重力と蚕の習性を、うまく利用した仕組みです。
③ 収繭を、機械でできる
格子が規則正しく並んでいるので、繭を取り出す収繭の作業を機械で効率化できます。
知恵は、受け継がれていく
藁蔟、藤蔟、そして回転蔟。
効率でいえば、回転蔟に軍配が上がります。実際、今の主流はこれです。でも——藁や藤を編んで蚕の家をこしらえた、あの知恵を、忘れてしまうのはもったいない。身近な自然を生かし、工夫を重ねてきた。その積み重ねの先に、今の回転蔟があるのですから。
道具は変わっても、「いい繭をつくりたい」という思いは、ずっと同じです。野村の養蚕は、先人の知恵を土台にしながら、これからも続いていきます。
ZEROSPHERE / ゼロの番人