見回りと取り込み ― 命がけの、生け捕り
前回、くくりわなの設置のコツを書きました。今日はその続き——わなをかけたあとの話です。見回りから、生きたまま捕らえる「取り込み」まで。ここには、狩猟のいちばん張りつめた瞬間があります。
毎日の見回りは、命への責任
わなを設置したら、毎日の見回りが日課になります。
理由は、はっきりしています。わなにかかったイノシシを数日も放置すれば、死んでしまう確率が高くなるから。生きたまま、できるだけ苦しませずに——そのためには、まめに通うしかありません。見回りは、狩る側が負うべき責任なのです。
かかった「予兆」を読む
見回りに行っても、たいていは何もかかっていません。でも、イノシシがかかっていると、現場の様子が少し違います。
道の近く、斜面の上でかかっているときは、道路に石が転がっていたり、根付(ねづけ)の木を中心に地面が大きく掘れていたりする。暴れた跡です。
ところが——そんな予兆すらなく、気づかないうちにいきなりイノシシが突進してくることがあります。これは、本当に驚く。(その点、鹿はわなにかかってもおとなしいものです。)
だからこそ、わなをかけた場所には安易に近づかない。ワイヤーの長さを頭に入れて、その届く範囲の外から確認することが鉄則です。
イノシシの攻撃を、甘く見ない
わなにかかったイノシシは、危険です。ここは、はっきり書いておきます。
- オスには牙があります。頭を下から上へはね上げて攻撃してくる。ちょうど人間の太もも(大腿部)の高さ。運悪くそこの動脈を切られれば、大事故になりかねません。
- メスは、噛みついてきます。
イノシシは普段、人間と出会えば逃げていく動物です。けれど、手負いになると話は別。わなにかかったイノシシは、まさに人間めがけて猪突猛進してくるのです。
まず「何が」かかったかを確認する
わなに獣がかかっていたら、最初にすることは、何の動物かの確認です。
猟期であっても対象の獣かどうか、そして有害鳥獣でなければ、放してあげる必要があります。ルールに沿って、獲るべきものだけを獲る。これも狩猟の大切な作法です。
本命のイノシシがかかっていた場合は——ここから、いちばん慎重になります。
かかり具合と、根付を確認する
近づく前に、必ずイノシシより高い位置に立ち、わなのかかり具合を確認します。
- くるぶしまでしっかりかかっていれば、ひとまず大丈夫。
- 爪先だけだと、抜ける可能性があるので、かなり慎重に。
- 大型のイノシシは、自分の突進力で自分の足を引きちぎることすらあります。油断は禁物です。
あわせて、根付の木が耐えられるかも確認。細い木だと、折られてしまうことがあります。
いよいよ、取り込み ― 生け捕りの手順
私たちは、イノシシの肉をおいしくいただくために、生け捕りをしています。ここからが、取り込みです。
いまは、四本足のうち一本がくくりわなにかかった状態。まず、これ以上暴れさせないよう、鼻取り(はなとり)を行います。
- 鼻取り:先に輪っかのワイヤーをつけた棒で、イノシシの上あごと鼻に輪を通し、タイミングよく締めます。うまくいくと、鼻と足一本が固定される。この二点を逆方向に引っ張り、動きを封じます。
- 口を縛る:まだ口の開け閉めは自由なので、口をしっかり縛ります。
- 目をふさぐ:目の周りをテープでふさぎます。イノシシは、目をふさぐとおとなしくなるのです。
- 四本の足を縛る:最後に四肢すべてを縛る。これで身動きが取れなくなり、ようやく車へ運搬できます。
命がけの、数分間
言うまでもなく、イノシシも命がけです。だから人間も、怖さを抱えながら、必死で取り込みます。汗だくで、心臓が高鳴る、ほんの数分間。
でも、この一手間があるからこそ、臭みのない、おいしい肉としていただける。畑と暮らしを守るために捕らえた命を、最後まで丁寧に扱う——それが、その命への敬意だと、私は思っています。
ZEROSPHERE / ゼロの番人